2001年3月30日金曜日

タイへ引っ越し

 ついこのあいだまで、おんぼろアパートの冷蔵庫のような部屋で、『シャイン』のあのピアニストのように指先のない手袋をはめて、寒さに震えながら仕事をしていたのに、いつのまにか世の中は春になっている。どこへ行っても桜やコブシや雪柳や花桃が満開。ほかの季節には、そこにあることさえ気づかないような木々が、一年のこの時期だけは思いっきり自己主張している。  
 
 春はいつの年でも感動的だが、今年は花の鮮やかな色がいっそう心に染みる。じつは家庭の事情でこの春、タイに引越すことになったからだ。自分でもさんざん悩んだあげくの選択なので、後悔はしないつもりだが、それでも出発の日が近づいてくると、しかもこんな美しい季節に日本をあとにしなくてはならないと思うと、なんだか泣けてくる。タイに行ったら、四季の移り変わりは味わえなくなる。なにしろ、タイには季節がふたつしかない。ひとつは暑い季節。もうひとつは、うんと暑い季節!  

 これから数年間、向こうに滞在する予定だが、そのあいだもいまの仕事は頑張ってつづけたいと思っている。もちろん経済的にそうせざるをえないからだが、精神的にも仕事はとても重要だ。仕事をすることで日常生活から頭を切り替えられるし、暇だとくよくよと考えてしまうので。  

 一年前に横浜に引越してきたばかりで、ここの生活にようやく慣れてきたところでの移動なので、娘にはかわいそうなことをした。まあ、冬のあいだ娘が友達と観察しつづけたカモたちも、大半が渡ってしまったようなので、自分もそろそろ旅立つときが来たと思っていてくれるカモ。ただし、私たち親子の場合、春が来て南に渡るヘンテコな渡り鳥だけど。  

 次回の通信はバンコクからになる予定。夏の山登りと冬のスキーだけは私も娘もあきらめきれないので、日本には毎年何度か戻ってくるつもりだ。それでは、みなさま、今後ともどうぞよろしくお願いいたします。