2012年9月29日土曜日

小島をめぐる争い

 ついこのあいだまで国民の最大の関心事は、「脱原発」か「原発推進」かだったはずなのに、いつの間にやら、人が住むには適さない絶海の小島をめぐる領土問題へと移り変わり、日本が潜在的核保有国であるために核燃料サイクルは継続させなければならない、これらの島を失えば、日本の存続まで危ういといった主張まで声高に聞こえてくる。日本関連の工場や飲食店の破壊、洋上の水の掛け合いにまで発展した一連の出来事が、それぞれの国の政局絡みで、単に国民の不安や恐怖、猜疑心を煽って、本来の内政問題に目を向けさせない、あるいは政権奪回のためのものなのだとすれば情けない。明治政府から30年期限で個人の実業家が無償貸与されたはずの島が、1914年の期限を過ぎ、本人も他界してだいぶたったのちに長男に払い下げになった経緯はよくわからなかったが、「固有の領土」という関係諸国の建前の裏にある係争点を少しだけ調べてみた。  

 竹島はおもに漁業権をめぐる争いらしい。尖閣諸島も魚釣島、釣魚台の名前から、この海域がかつて好漁場だったことは察せられるが、いまも本当にそうなのか。八重山諸島近海は近年、水温の上昇でサンゴが死滅し、大陸から大量のゴミが流れ着いて漁獲量が下がっているという。そもそも沖縄県全体でも漁獲量は全国33番目、1.7トン弱だ。主要産品はマグロともずく。現在、世界一の漁獲量(1480万トン)の中国本土からこの海域は300キロ離れていて、往復の燃料費に10万元(約120万円)かかるという。かつて800万トンの漁獲量を誇った日本は430万トンに減少して世界5位。数字だけ見ると、中国に漁場を奪われているようだが、養うべき人口も日本の10倍以上、13億もいる。  

 結局のところ、尖閣諸島のほうは1968年の調査で「イラクに匹敵する埋蔵量」だとされた石油が争点らしい。尖閣諸島は中国からつづく大陸棚のはずれ、水深200メートルほどの海域に位置するが、埋蔵されている場所は水深2000~9000メートルの深海だという。北海の油田の多くは水深わずか60~70メートルの海域で掘削されている。2010年にメキシコ湾で史上最悪の原油流出事故を起こしたBPの油田は、沖合80キロ、水深1522メートルの地点で掘削中だった。「ちきゅう」なら水深2500メートルの深海で地底下7000メートルまで掘れるそうだが、試料採取用の細い孔だけ開けてどうにかなるものでもないだろう。たとえ掘れたとしても、日本とは深海を隔てたこの海域の原油をどうやって運びだすのか。沖縄本島からも400キロはある。そのうえこの海域は台風の通り道だ。中国では渤海の浅瀬の油田ですら、すでに何度も原油流出事故が起きている。かりに日中両国が仲良く共同開発しても、海の生態系を破壊し、ただでさえ希少な水産資源を失う結果に終わりそうだ。  

 このままさらに状況が悪化して、武力衝突にまで発展すれば、日本経済を支える中国との貿易(輸出入ともに20%前後)も途絶えることになる。日本は現在、食料の約12%を中国に頼っている。食料の30~40%はアメリカからの輸入だが、アメリカはこの夏の大干ばつで穀類も豆類も大凶作だ。自分の国は自分で守ると勇ましい声をあげる人たちは軍備増強ばかり唱えるが、これでは精神力と竹槍で「鬼畜米英」に挑んだ時代の再来になりそうだ。食料も燃料も他国頼みの日本はそもそも自立していない。戦争になれば点滴や胃瘻チューブをはずされた状態になる。だから米軍には守ってもらい、基地を提供してオスプレイは配備させる。そんな主張に矛盾を感じないのだろうか。  

 国を武力で守れた時代はとうの昔に過ぎている。たとえ厄介な隣人でも、裏切ることのできない信頼関係と共存関係をあらゆるレベルで築き、テロリストや暴徒を生む素地をつくらせないことしか日本が生き延びる道はないはずだ。戦国時代や幕末を舞台にした時代小説や漫画、ゲームにはまりすぎて、みんな時代錯誤に陥っていると、私は改めて思った。