2001年8月30日木曜日

ミイラの本とハリー・ポッター

 夏休みのあいだ3週間ほど一時帰国した。日本にいていいことは、友達と会えること、空気がきれいで夜が涼しいこと、梨や漬物が食べられること、それに言葉に不自由しないこと。気軽に図書館に行かれるのもいい。  

 今度、ミイラの本をやることになったので、さっそくミイラに関連した本を何冊か近所の図書館で借りた。私は何を隠そう、極度の死体恐怖症なので、ラムセス2世のお顔などとても正視できないが、ミイラの話でも読んでみると結構おもしろいことがある。どんなジャンルの本でも、頭から毛嫌いせず、とにかく読んで見ることが大切だと改めて思った。  

 参考文献を読んでいたら、ロンドン医師会の重鎮、トマス・ペティグルーなる人が出てきた。ペティグルーって、そう言えばハリー・ポッターにもそんな人物が出てきたな……と思いながら読んでいると、彼の著書『エジプトのミイラの歴史』の挿絵を描いたのは、ジョージ・クルクシャンクだという。えっ、ハーマイオニーの猫はたしかクルックシャンクスだよね。もしかして作者のローリングはこういう本も読んでいるのかなあ。  

 ハリー・ポッターについては、先月、塩原通緒さんが書いていらしたので、読んでいない方もだいたいおわかりだと思う。私はと言えば、結構はまっていて、時間がないと言いつつ、ずっしりとした4巻目もしっかり読んでしまった。4巻はすっごくおもしろい。できるだけ多くの子供たちがこの分厚さにめげずに、読みとおしてくれるといいなあと思う。  

 このシリーズのいいところは、いまふうの軽い語り口でありながら、社会のなかで日々遭遇するいろいろな問題が、さりげなくとりあげられていることだ。たとえばこんなシーンがある。森番役の大男ハグリットが、フランスの魔法学校ボーバトンの校長である大女マダム・マクシムに惚れ、これまであなたのような仲間に会ったことがない、と身の上話を始める。マダム・マクシムはなんの仲間かときき返す。すると、ハグリットが、もちろん半巨人ですよ、と答える。マダム・マクシムはこんな侮辱を受けたことはないと憤慨し、「'Alf-giant? Moi? I 'ave - I 'ave big bones!」とフランス語訛りでやり返す。  

 現実の世界でも、マイノリティはこういう場面によく遭遇する。うちの娘も、父親がタイ人であることを話してクラス中に衝撃が広がった、という経験をしている。ところが、それが巨人の血となると、ハグリットの悩みもなんだかとってもほのぼのとしている。極めつけは、ハリーがあとから言う言葉だ。「骨太だって……あの人より骨が太いのは、恐竜くらいだよ」 

『日刊予言者新聞』のゴシップ記者が出てきてハリーたちを悩ませるあたりは、いまの有名人とマスコミの確執を思わせるし、クィディッチのワールドカップの熱狂ぶりは、いまのサッカーやバスケットボールと同じだ。私が感心したことのひとつは、吸魂鬼ディメンターをやっつける呪文だ。これは、いちばん幸せだったときを思い出すことで、守護霊パトローナスを出現させるというものだ。人間は恐怖を感じると、ノルアドレナリンなどの神経伝達物質が分泌され、それが大量になるとパニックを引き起こす、と以前読んだ本に書いてあった。それを防ぐには、楽観的な見方を失わず、理性をはたらかせることらしい。パトローナスの呪文はまさにこれにちがいない。そう言えば、これに似たリディクラスの呪文を練習する場面では、ミイラのボガートが出現している。