2004年2月28日土曜日

バレンタインデー 考

 2月13日の金曜日、娘が学校から当惑顔で帰ってきた。「困っちゃうんだよねえ、こんなにもらって」と言いながら、鞄から取り出したのはきれいにラッピングされたチョコやケーキの数々。聞くと、クラスの女子ほぼ全員から手作りのプレゼントをもらってきたという。「義理チョコ」ではなく「友チョコ」と言うそうで、数年前から小・中学生、高校生のあいだで流行っているらしい。  

 学生時代の友人に、背が高くて美人で頭のよい人がいた。女子高出身の彼女は高校時代に友達や後輩からよくチョコをもらっていたという。その話を聞いて、それって宝塚の世界だよね、とみんなで大笑いした覚えがある。だから、娘がバレンタインデーにお菓子をもらってきたとき、初めはぎょっとしたが、別に深い意味はなく、単に友情の証らしい。「もういまは男の子にはあげないの?」と聞くと、あげる子もいるけれど、憧れの先輩にドキドキしながらあげる、といったことはあまりないそうだ。 

 私の高校時代には、もっぱら男の子のことばかり考えていて、同性の友達とはおざなりの付き合いしかしない子が多かったが、最近は違ってきているのだろうか。もしかしたら近ごろは、身近な異性は友達でしかなく、心ときめくような感覚がなくなっているのではないか。原因として考えられるのは、一つには昔風の父親がいなくなり、育児も家事も平等に分担する両親を見て育った子供が、男と女は違う生き物ではないと考えるようになったことだろう。また、そこに由来するのかもしれないが、美容院に行くことになんの抵抗もない男が増え、脛毛も体臭もない男がもてるようになったせいでもある。  

 先日、夜遅くに人通りのない場所を高校性の男女が歩いていた。寒い日なのに、女の子のほうは太い脚を惜しげもなく出している。これは危険だと老婆心ながら少し離れてついていった。ところが、男の子が何か言うたびに、女の子は「ヘェー、ウソーッ、ホント」を連発し、そのうえ「ヘェーの98乗」などと答えるのだ。ああ、これではロマンチックなムードになるはずもない。夜空を見上げて、「ご覧よ、あれがスバルだ」と誘いかけたところで、「えっ、マジ?!」なんて言われたら、キスする気にもならないだろう。  

 男女が平等になって、健全な男女交際ができるのは喜ばしいことなのだろうが、鏡に映った自分の姿にうっとりする男ばかり増えるのは嘆かわしい。逆に、やたら言葉遣いの荒い、怖そうなお姉さんが増えるのは、男にとってありがたくないだろう。若い娘が恐ろしげになったことが、幼児に手を出す男が増えた一因にちがいない。性差が薄れつつあるこうした現状がバレンタインデーの友チョコ現象に反映されているのだ、と私は勝手に分析している。 

 それにしてもこの手作りお菓子ブームには、ちょっと閉口させられる。どこの家庭でもクッキーやケーキが簡単につくれるわけではない。お菓子をもらったら、お礼を返さなければならないのだ。昨年は小学生のいとこにクッキーを焼いてもらってそれをお返しにあげていた娘も、今年は開き直って、「いいよ、私はクッキーの形のカードをつくって返すから。素知らぬ顔で、ありがとうって渡すんだ」と、工作に励んでいた。幸い、偽物のクッキーは友達のあいだで大受けだったそうだ。