2007年2月28日水曜日

タイ旅行2007年

 今年もまたタイへ行ってきた。20数年にわたって、この国とのあいだを何度往復したことか。それぞれの滞在は短くとも、少しずつ勝手を知るようになり、いまや私にとってタイはナルニアやホグワーツのような存在になっている。なにかと評判の悪いスワンナプーム新空港は、ボーディング・ブリッジで空港ターミナルに接続されていたため、以前のように到着した途端タイの熱気に迎えられることはなかったが、空港をでると外は30度を超える暑さだった。着ていた冬服を脱ぎ、時計を2時間巻き戻すと、変身完了。  

 ちょうど春節だったので、バンコクの街中では今年の干支である猪、というより豚の絵柄付きの赤いTシャツがたくさん売られていた。旧正月の翌日、赤一色に染まった光景を見ようと中華街にでかけてみたが、月曜日だったため、ここでも黄色いTシャツ、ポロシャツ姿のほうが目立っていた。タイでは曜日ごとに色が決められていて、黄色は月曜日の色なのだ。現国王が月曜生まれであるため、国王への敬意を表わすために、昨年の即位60周年から毎週月曜になると街中に黄色いTシャツが氾濫するのだという。外国人の目にはちょっと異様な光景だ。私はつい黄巾の乱とか、黒シャツ隊を連想してしまう。  

 むしろ、あらゆるものが混在していることがタイの短所でも長所なのに、と私は思う。街並だって統一感がまるでなく、決して美しくはない。この季節は木の花の盛りで、あちこちにきれいな色の花が咲いているのだが、その下をショッキングピンクのタクシーが走ったりして、台無しにしている。でも、ふと目を向けた先に極彩色の鳥がいたり、迷い込んだ路地に小さい店がひしめきあう想像を絶する世界が広がっていたり、という驚きこそ、タイの魅力なのだ。100円以下でクウィッティアオをすすっている横で、金銀、宝石が並べられている、といった珍妙な取り合わせが、街中いたるところにある。  東南アジアのなかでは自然に恵まれ、経済的にも政治的にも比較的安定しているタイは、急速にふくれあがる中国とインドという超大国にはさまれ、その餌食になりかねない。外国人が多すぎるという不満の声を、滞在中、何度かタイ人の口から聞いた。自分たちの共同体を守らねば、というタイの中間層の意識が、黄色いTシャツというかたちで表われているのかもしれない。  

 今回もまたタイの北西部と東部に、鳥見にでかけた。友人たちが企画してくれた2度目の旅行が、とりわけ楽しかった。環境研究センターとなった原生林のなかを、トラックの荷台に乗って専門のガイドに案内してもらった。夜は私たち一行のためにオイルランプの灯された道を歩いて虫を見にいき、昼間の太陽で熱せられてほんわかと温かい地面に寝転がって星を眺めた。あれがスナック・ヤイ(大犬座)、こっちはスナック・レック(子犬座)と、タイ語で講義を受けながら、多少は理解できたことが無性にうれしかった。  

 翌日は常緑の森を抜けて、暑い乾燥落葉樹林を歩いたあと、多少ふらふらになりながらたどり着いた先に、私たちのためにピクニック場が用意されており、その場でソムタム(サラダ)までこしらえてくれた。おまけに、ハンモックでの昼寝付き。まさに天国だ。年中無休で仕事をしなければならない私にとっては、ほんのつかの間のありがたい休息だった。  

 最後は所持金を使いはたし、夜行便を待つために早々と空港へ行き、友人がもたせてくれた果物や菓子を夕食代わりに、ベンチで仕事を再開した。すると、ガラス張りの空港全体が夕焼け色に染まりだした。もしや、この空港のドイツ人設計者は、このドラマチックな一瞬のために、この南国でガラス張りの建物を考案したのだろうか? 冷房代のほうが、照明代よりもよほど高くつくだろうに。まあ、薄暗いゲートで目をしょぼつかせながら仕事をする哀れな旅行者に配慮してくれなかったことだけは、間違いない。

 中華街にも黄色いTシャツがあふれている

 こんなごちゃごちゃした光景にも

 よく見るときれいな紫の花が

 タイ北西部の森で鳥見に興ずる

 夕日に染まる新空港――ピンボケですが