2011年9月30日金曜日

不運続き

 この9月はなぜか「事件」の多い月だった。始まりは母からの電話だった。こともあろうにキャッシュカード詐欺に遭って、総合口座の定期預金まで引きだされてしまったのだ。うちの近所はほぼ連日、パトカーやゴミ収集車、消防団などがこの手の詐欺に気をつけろと、耳にたこができるほど言って回っているので、自分の母親がそれにまんまと引っかかるとは夢にも思わなかった。頭に血が上った私は、ともかく状況を正確に把握しなければと思い、船橋の警察署で母と落ち合わせることにして電車に飛び乗った。  

 発端は前日の夕方、警察を名乗る犯人からかかってきた電話だったが、母が私に連絡してきたのは翌日の夕方近くになってからだった。いわゆる劇場型の犯罪で、犯人グループは警察や銀行員になりすまして母に電話をかけつづけ、その間にもうカードを回収する実行犯が玄関口に現われたらしい。なぜ、すぐ私に連絡してくれなかったのか、どうしてそんな猿芝居に騙されたのかと、話を聞けば聞くほど情けなくなった。つい口調がきつくなっていたのだろう。事件を担当した刑事さんにあとから、「犯人はじつに巧みに話すので、誰でも引っかかるものなんですよ。お母さんをあまり責めると、この事件をきっかけにうつ病になったり、認知症になったりすることもありますから」とたしなめられた。確かに、それだけはなんとしても避けたい。  

 あとから考えてみれば、犯行があった晩は台風の影響で荒れ模様だったため、母に電話をかけなければと、一瞬思ったのだ。あのとき私が電話をかけていれば、少なくとも日付が変わってすぐ、一日の引き出し限度額が更新された瞬間に深夜のコンビニのATMから下ろされた二度目の犯行は防げたはずだ。防犯カメラには実行役の姿が映っているそうだが、こういう犯罪は毎日あまりにも多くの件数で起こっているので、捜査の手が回らないのが実情のようだ。あとは金融機関が詐欺事件の被害者のために設けている制度で、被害額の何割かでも戻ってくることを願うばかりだ。  

 この事件のショックから立ち直る間もなく、今度はあちこちから突然の訃報がつづいた。例年、夏の終わりから秋口にかけては、真冬と並んで亡くなる人が多いそうだが、今年は震災のストレスに加えて、暑い夏を節電しながら過ごしたせいだろうか。まだ当分は活躍するだろう思っていた人たちが、まるでもうこんな世の中はご免だと言うように、あの世へ旅立ってしまった。  

 さらに、台風15号にもやられた。お隣とのあいだに並んでいたカイヅカイブキが5本も曲がり、そのうちの2本が窓に覆いかぶさっている。たしかに風の通り道にありながら、丈が高いまま放置されていたのだが、こんな被害がでるとは。これでは歯抜けになって目隠しの役割をはたさない。どうせお隣はもうずっと空き家だから当面はいいか、などと思っていた矢先に、今度はそのお隣が取り壊しになることになった。すでに足場を覆うシートの向こうで、連日、バリバリ、ガッシャーンと、気の滅入るような騒音がつづいている。  

 私の周囲の一連の出来事は大震災の余波のようなもので、こんな末端までついにその波紋が広がったのだろうか。それともこの先さらに「大事件」が待ち構えているのだろうか。We'll cross that bridge when we come to it. その橋まできたら、渡ればいい。取り越し苦労をしても仕方ない。以前はこう言われると腹が立ったが、いまはこうして開き直るしかない気がする。