2001年5月30日水曜日

雨季真っ只中

 5月に入ってから、ここバンコクでは、午後に突然ものすごい突風が吹いて、どしゃぶりになることが多くなった。これからの雨期に因んで、今回は水に関する話題を。  

 大雨になると、アパートの前の道路は、たちまち川になる。ちょうどいま翻訳している気象関係の本に、洪水の話がたびたび出てくる。小規模とはいえ、実際に目の前で氾濫する様子を眺めると、自然や水の恐ろしさをあらためて感じる。もっとも、タイ人は慣れたもので、そのなかを車や、オートバイや、屋台付き自転車などで、チャプチャプと行ってしまう。  

 バンコクは水の都と言われ、市内のあちこちに運河がある。昔は運河が主要な交通手段だったらしいが、最近ではその大半が埋め立てられて道路に変わってしまっている。残っている運河の多くは、その両岸に貧しそうな家というか小屋がびっしりと建ち並び、水は恐ろしく汚く、東洋のベニスどころではない。  

 それでも、セーンセーブ運河にだけは運河船が走っているのを知り、週に二回、これに乗って夕方、タイ語の学校に通うようになった。水の上は涼しく、それになんといっても交通渋滞にあわないのがいい。10分おきくらいの間隔で走っていて、通勤に使っている人も結構いる。ミニスカートにハイヒールのOLたちが、桟橋から船に乗り込んでくるたびに、ひやりとするのだが、乗るときも降りるときも、かなりの段差をものともせず、みごとな身のこなしだ。  

 ただし、船がスピードを上げると水がバシャッとくるのが玉に瑕。なにしろ、ここの水もお世辞にもきれいとは言えないのだ。あちこちの家からホースが出ていることは、なるべく考えないようにしている。この水がもう少しきれいになれば、もっと運河船の利用客が増えて、市内の渋滞の緩和に役立つのに、とつい考えてしまう。  

 ところが、先日、この路線の終点から、さらに先のマハナコーン運河の路線にも乗ってみると、なんと、その茶色い水のなかに浸かっている人がいるではないか! 水から落ちた人を救助するための訓練かな、と思っていたら、反対岸の階段に、全身ずぶぬれでにこにこ笑っている子供たちがいるのだ! ムッ? もしや水浴び? こちらの運河はもっと幅が狭く、家の軒先を行くような感じなので、暮らしに密着したものになっているのかもしれない。それにしても、セーンセーブとつながっているんだけどな……。  

 あんな味噌汁のような水のなかに落ちたら、目を開けていてもおそらく視界はゼロだろう。万一、ドボンとなった場合に備えて、私は毎日、アパートにあるきれいな水のプールで訓練をしている(?)。バンコクに来て最高の贅沢はこのプール。30分あれば、プールまで下りていって、1キロ泳いで、部屋に戻ってこられる。でも、ここでは日本人みたいにせっせと泳ぐ人はあまりいなくて、お風呂のように浸かったり遊んだりしている人とか、プールサイドで読書しているファラン(白人のこと)とか、プールサイドでジョギングしたり、散歩したりしている人が多い。決して広いプールではないので、なんだか囚人が運動させられているみたいだ。まあ、市内の道路は、中心街を除いて歩道なし、横断歩道なし、歩行者用信号なし、と歩行者を徹底的に無視した造りになっているし、排気ガスもひどいので、仕方ないのかもしれない。それでも、トレッドミルの上で汗を流すより、同じところをぐるぐるまわるより、外を歩いて、牛やヘビやリスや鳥や野良犬を眺めて、ついでにちょっと買物でもしてくれば、そのほうがいいのにな、と私は思う。

「嵐のまえ」

「嵐のあと」