2002年1月30日水曜日

観光ガイド

 1月上旬に日本から母たちが遊びにきてくれたので、数日間、仕事を離れて、観光ガイドに徹することにした。滞在期間が短かったので、どうしても見せたいところだけに限定し、そのなかでタイのいろいろな顔が楽しめるように旅程を組んだ。  

 これは私がつねづね思っていることだが、快適な乗り物に乗せられて観光スポットをあちこち訪問し、ガイドの説明をただ聞くようなツアーだと、しまいにはどこのお寺も、どこの遺跡も、どのショーも頭のなかでいっしょくたになってしまう。私はむしろ外国に行ったら、その国の人びとの生活に触れてみるほうが好きだ。  

 だから、できるかぎり公共の乗り物を使うのがいい。今回もバスやBTSスカイトレインはもちろん、運河ボートやチャオプラヤー・エクスプレス、トゥクトゥク(オート3輪)などいろいろな乗り物を試した。空港から家まで乗ったタクシーは、スピードメーターが壊れているのに時速120キロくらいで飛ばしたので、後部座席の姉はさすがに青い顔をしていた。そうそう、象にも乗ってもらった。しかし、なんと言っても極めつけはバイク・タクシーだろう。近所のスーパーまで行くのに、母をこれに乗せたのだ!   

 また、旅の思い出でいつまでも記憶に残るのは、案外、食べ物じゃないだろうか。暑いなかを歩きまわったあとのパイナップルや、ココナツ・ジュースの味は格別だ。私と娘は、ふだん歩いていて見たことのないものが売っていると、なんでも試してしまう。私たちお気に入りのタイ風綿菓子ローティーサーイマイは、姪たちにも大ヒットだった。今回は、中華街のレストランで食べたエビと豆腐のとろっとしたスープや、タイ料理屋で食べたグアヴァのソムタムがとってもよかった。  

 バンコクの郊外にも1日足を伸ばし、早朝のダヌムン・サドゥアク水上マーケットを見に行った。3年ほど前に行ったときとくらべて、船の数がぐっと少なくなったのがとても気になったが、行き交う船の行商人からランブータンや焼き鳥、バナナの葉にくるんだココナツのお菓子を買ったり、運河の両岸の土産屋をひやかしたりし、それなりに楽しかった。  

 こういう土産屋は、こちらを日本人と見るなり、「このゾウ2枚300バーツ、安いねえ、きれいねえ」と、カタコトの日本語で話しかけてくる。置物でも、スパイスでもなんでも、類別詞が「枚」なのは笑ってしまうが、世界の言語のなかでも難しいとされる日本語を、こうして操っているところはあっぱれだ。ちなみにタイ語には、類別詞がものすごくたくさんあり、とにかくややこしい。いつも、なんだったっけと悩むが、ここの土産屋のおばちゃんたちを見習って、間違っても気にしないことにしよう。  

 今回は船を1時間チャーターしたので、水上マーケットの奥まで行くことができた。市場のにぎわいがなくなったあたりから、鳥の声が聞こえはじめ、バードウォッチャーの娘は早速、双眼鏡をとりだした。私は木のなかに見たことのない黒い鳥を発見。「うーん、あれはオウチュウだ……わかった、ラケットテール・ドロンゴだ!」と娘。さっと飛び立った鳥には、糸のような長~い尻尾があり、その先にひらひらとイチョウの葉のようなものがついていた。カザリオウチュウだ。また新しい鳥を目撃でき、娘は大満足だった。  

 楽しい日々はあっという間に過ぎ、私はまたいつものコンピュータに向かう生活に戻った。そうだ、今度、あのグアヴァ・ソムタムをつくってみようかな……。