2006年3月30日木曜日

タイ旅行2006年

 一週間ほど娘とタイへ行ってきた。ふだん静かな住宅街にいるせいか、一年数ヵ月ぶりのバンコクはあまりにも騒々しく、最初の晩はよく眠れなかった。急に汗をかいたせいか全身が汗疹でかゆくなり、薬屋に駆け込むはめにもなった。それでも、二、三日もすると、蝿を追い払いながら道路わきの即席レストランで塩焼きの魚を食べていたのだから、われながら大した順応性だと思う。  

 今回はいろいろな用事が多く、バードウォッチングができたのはルンピニ公園を少々ぶらついた日と、タイの鳥見仲間に郊外のマハサワット運河に連れていってもらった一日だけだった。それでも、小船を操縦するおばさんが気まぐれな鳥(というより客?)に合わせて船を止めたり後戻りさせたりしてくれたおかげで、バンコク近郊にいる目ぼしい鳥はほぼ見られ、娘も私も大満足だった。途中の蓮の池ではボートも漕いだし、トラクターに乗ってお米の収穫現場にも行き、農村の様子をかいま見ることもできた。  

 私はいまインド料理の本に取り組んでいるので、バンコクのインド人街といわれるパフラット市場ものぞいてみた。本当はイドリーやドーサを味見してみたかったのだが、洋服屋ばかりで見当たらなかった。でも、パーンと呼ばれるキンマの葉に包んだ噛み物を見つけ、「製造工程」を観察してきた。最後に楊枝代わりにクローブで葉を留めるアイデアがいい。試しに噛んでみたら強烈な味だったが、口のなかが赤くならなかったので、私たちが試したものにはビンロウは入っていなかったようだ。女子供はこっちを食べなさい、とばかりにつくってくれた甘いほうの包みは、結構おいしかった。  

 娘が大学の入学式に着るスーツをオーダーメイドできたのもよかった。子供のころから親戚や友達のお下がりばかり着ている娘は、ネパール人経営の店でぴったりサイズに仕立ててもらった黒のスーツが、ことさらうれしかったようだ。三種類の服地から中程度のものを選び、仮縫い、直しを含めて、お値段は4000バーツ(約12,000円)。  

 それにしても、タイの物価はよくわからない。中華街で食べた、豆乳に麦などを入れたおいしいデザートはわずか5バーツなのに、サイアムパラゴンなどの高級ショッピングセンターでは、Tシャツが3000バーツ、ちょっとすてきなワンピースだと12,000バーツもする。円やドル建てで給料をもらっている人をターゲットにしているのだろうか。ブランド品に縁も興味もない私たちは、プラトゥーナム市場で買う70バーツのTシャツで充分だ。  

 タイはいま総選挙直前とあって、いろいろなところで賛否両論を聞かされた。タクシン首相退陣と選挙の中止を要求するデモに参加している人もいれば、ここまでタイ経済を発展させたのは彼だと評価する人もいる。国民がここまで政治に関心をもっているだけ、健全なのかもしれないが、どうも選挙後、タイの社会も経済も混乱しそうな嫌な予感がする。国を代表する人はスターとして崇められるか、悪人扱いされる。でも、本当は首相一人を挿げ替えて解決する問題ではなく、経済の急成長によって生じた国民のあいだの大きな歪が、こんなかたちで噴出したような気がするのだが。  

 今回は短いバンコク滞在だったけれども、思い切って出かけただけのことはあった。さあ、これから一週間分の仕事の遅れを必死で取り戻さなければ!
 イラスト・東郷なりさ