2022年5月6日金曜日

結局はエネルギー問題なのか

 政治・経済のニュースはあまり興味がないので、普段は最低限の情報しか読まないが、数日前、ウクライナ侵攻に関連したエネルギー問題と、その隣のページにあった労組分断という記事をひとしきり読んでしまった。 

 私がまだ旅行会社に勤めていたソ連崩壊から間もないころ、シベリアの石油開発事業関連で来日したアメリカ人と話をしたことがあり、その後も世界の石油メジャーや日本の商社などが大規模な開発を進めるニュースを見るたびに、そのことをよく思いだしていた。北極海も、地球温暖化で季節的に航行が可能になると、各国がこぞってこの海域に触手を伸ばすようになった。 

 翻訳の仕事を通じて長年、気候問題にはかかわってきたので、もう何十年も科学者が警告の声を上げているにもかかわらず、化石燃料の使用が増える一方の現実に、エネルギー問題の厄介さを痛感している。改めて各種統計を見ると、ロシアは天然ガスの埋蔵量が世界1位、石炭は2位、石油は6位で、2016年の総輸出額に占めるエネルギーの比率は約6割という。天然ガスは温暖化対策の切り札とも言われてきたので、ロシアはその点でこの数十年間かなり有利だったのだろう。 

 今回の戦争の経済制裁によって、これらの化石燃料の一部が使われなくなれば、地球の気候にとっては喜ばしいのだろうが、各国がその穴埋めをすぐに再生エネルギーで賄えるわけではない。代わりに原発を増やしたり、その代替分の化石燃料を遠隔地からCO2をだして運んだりすれば、地球環境にとってはむしろ嘆かわしい。 

 今年もすでにシベリアで森林火災が相次いでいるのに、戦争中でロシア軍がいつもの消火活動にかかわれていないというニュースも数日前に読んだ。ロシアの国土の60%は永久凍土で、温暖化の影響がいちじるしい北極圏では、近年、夏に猛烈に高温の日がつづき、火災が起きやすくなっているようだ。昨年、シベリアでは2012年を上回る最大規模の森林火災に見舞われ、WWFのサイトによると、日本の半分に当たる面積が焼失したという。ただでさえ温暖化で始まっている永久凍土の融解が、火災で加速されれば、CO2ブラックカーボンのエアロゾルとともにメタンが大量に放出されることも忘れてはならない。 

 エネルギー問題と労組分断の記事は、一見まるで無関係のようだが、政府の脱炭素推進によって、2030年代なかばまでに乗用車の新車販売をすべて電気自動車などに切り替えることになった結果、エンジン関連の製造業で雇用不安が広がり、それが生き残りをかけての労使協調につながっているという内容だった。同じことは電力総連でも言えるという。記事には、かつて50%以上あった労組全体の組織率が昨年はすでに全労働者の1割程度にまで落ちていたともあり、働く環境は様変わりしているようだ。 

 つまるところ、気候問題に端を発するエネルギーの方向転換に、世界中が揺すぶられているのではなかろうか。本来ならば、気候問題こそ人類が一致団結して取り組まなければならない未曾有の危機であるはずなのに、破壊の限りを尽くす戦争がつづき、一向に終わる気配が見えない。それどころか気候の危機を待たずに、核戦争で人類が自滅する可能性すらある。ミサイル攻撃を受けてもうもうと上がる黒煙。廃墟となった夥しい建物群。途方もないゴミ処理を想像するだけも、復興時に必要となる大量のセメントとそのために排出されるCO2のことを考えても、やりきれない。 

 連休中ずっと仕事に追われ、頭の痛い問題と暗いニュースに悩まされつづけていたので、昨夜、娘宅から羽化寸前のクロアゲハの蛹がやってきたのが、せめてもの慰めとなった。夏の終わりに、ベランダのレモンの木で孵った幼虫が蛹のまま年を越したものだった。小旅行にでかける日に限って黒ずんできたから預かって、と電話があった。そんなわけで、今朝は5時起きして、横目で蛹を監視しつつ仕事をした。蛹は7時少し前にモゾモゾとでてきて、8時半には完全に翅を広げ、昼前に窓を開けると飛び立っていった。

この蛹の「命綱」はまだ残っていたけれど、尾の先が枝から離れてしまっていたため、工作物で支えて冬を越していた。

羽化するときは、体を軽くするため、かなりの量のおしっこをする。