2002年2月27日水曜日

不運続き

 二月はいつの間に過ぎてしまったのだろうか。この一カ月間は本当に嫌なことが重なった。私の一生を変える重大なできごとから、日常のちょっとした事件まで、うんざりするほど悪いことばかりが続いた。  

 小さなことでは、いつも私たちがシロハラクイナを見に行っていた沼が、二週間ほど見なかったあいだに、半分、埋め立てられてしまった。あの鳥はよく飛べないし、ほかに水のあるところと言えば、かなり遠くまで行かなければならない。このまま、わずかになってしまった沼地で、死んでいくのだろうか。  

 タイ語の学校の帰りに道路を歩いていて、後ろから来たオートバイに鞄をひったくられるという災難にもあった。なかには現金やキャッシュカードやクレジットカードはもちろん、車の免許証や、アパートの鍵、大事にしてい手帳や本、娘に買ってやったばかりの象の模様の帽子などが入っていた。悩みごとで頭がいっぱいで、いつもよりぼうっとして歩いていたのだろう。よりによってこんなときに。  

 ふと気づくと、反対側の手にもっていた牛乳を、残された唯一の宝物のように握り締めていた。昔、娘の友達が登校中に車に撥ねられて、大怪我をしたときのことを思いだした。事故の連絡を受けたお母さんは、すっかり気が動転してバケツをもって家を出たらしい。  

 たまたま現場に居合わせた別のオートバイの人が、窮状を見かねて娘と私のふたりを後ろに乗せて、近くの警察まで連れていってくれた。タイの警察は噂に聞くよりは親切で、カードの無効手続きや、盗難にあったことを証明する書類を作成してくれ、最後は家まで警察の車で送ってくれた。娘もその日は学校の宿題が山ほどあったのに、私ひとりを放ってはおけないと付き合ってくれた。   

 だが、この嫌な事件も私の苦しみのほんの一部でしかない。じつは、3月末にバンコクを去らなければならなくなった。いつかはこういう日が来ることを予期してはいたが、自分に与えられた時間がこれほど短く、どれだけ努力しても運命を変えることはできないのかと思うと、とても悲しい。  

 いまはただ、ものごとの悪い面だけを見ないように努め、日々の生活のなかに楽しみを見つけ、これから先もなんとかなるさ、とあきらめ半分で達観することにしている。例のシロハラクイナも、半分になった沼地の縁で餌をついばんでいるのが確認できた。アパートの横の草むらにも別のつがいがいることがつい最近わかった。あんな間抜けな鳥だって一所懸命に生きているのだから、私も頑張らなくちゃ。