2002年7月28日日曜日

北八ヶ岳

 ここ10年ほど毎年、夏休みは山と決まっている。しかも行くのはいつも八ヶ岳周辺だ。南はほとんど全部行きつくしてしまったので、今年は北に行くことにした。だから、明日は朝5時起きしなければならない。  

 それなのにいまごろこの原稿を書いているのは、山から帰った翌日が締切りの仕事がなかなか終わらず、先ほどまで言うことをきかないプリンターと格闘していたからだ。夕食のあとようやく荷造りを始め、明日は久々に運転手をするので早く寝なければと思いつつ、いまコンピューターに向かっている。  

 昔はあちこちのガイドブックを調べてコースを検討し、万全の準備をして出かけた。14キロほどのリュックを背負っても心は軽く、今度はあの山を登ってやるぞと意気揚揚としていた。死ぬほど怖い思いをしても、大雨に降られても、道に迷って暗い森を歩いても、それなりに楽しんでいた。  

 いまはどうだろう。山の新鮮な空気は吸いたいけれど、重い荷物のことを考えると憂鬱になる。テントは腰が痛くなるのでやっぱり子供に譲って、私は山小屋に泊まろうかなとも思う。ピタラス横岳ロープウェイに乗れば延々と歩かなくてすむよと言われれば、すぐさまそれに飛びつく。  

 じつは、今回どんなコースを行くかもよくわかっていない。いつまでたっても私が腰を上げないのに業を煮やして、娘がいとこたちと計画を立ててくれたからだ。小学生の姪はコンピューターを使ってコースを検討し、さらに不明なところは近くのリブロで立ち読みして調べたらしい。  

 初めて登ったころは、途中で負ぶってやらなければならなかったのに、みんな本当にすっかり大きくなったものだ。高所恐怖症で震えていた甥も、ついこのあいだまで泣きべそをかいていた小さい姪も、もう連れていくのになんの心配もない。いや、それどころか、体力的には子供たちのほうがずっと勝っている。もう一緒に来なくていいよ、と言われる日は間近なのかもしれない。  

 今回、私が唯一楽しみにしているのは鳥の声を聞くことだ。もちろん、姿を見られればもっといいが、夏山で鳥を見つけるのはけっこう難しい。昼までに頂上に着きたいというような時間の制約があると、なかなか鳥は探せない。だから、せめて声だけも聞きたいと思う。お目当ては、口笛のような声のウソと、不思議な響きのコガラ。それにホトトギスやコマドリの声も聞きたい。CDでばっちり予習したので、その成果を試してみたい。  

 余談だが、最近バードウォッチング検定ができたのをご存じだろうか。さすが日本人という感じだが、娘や鳥仲間の友達は挑戦してみたいらしい。英検よりこっちのほうがいいそうだ。そのうちきっと鳥の声のリスニング・テストなんてものができるだろう。  

 なんだか山に行く前からくたびれている私だが、新鮮な空気を吸って鳥の声を聞けば、気分もリフレッシュするかもしれない。せっかく行くからには、楽しんでこようと思う。願わくは、ぎっくり腰になったり、膝が笑ったりしませんように。ああ、情けない。