2003年12月29日月曜日

暮れのハイキング

 昔は暮れになると大掃除をして、おせち料理をつくり、食料を山ほど買い込んでお正月を迎えたが、スーパーが年末年始も休まず営業するようになり、普段と変わらない生活ができるようになったせいか、お正月のために取り立てて何もしなくなった。その代わりに、十年ほど前から年末に家族や親戚でハイキングに出かけるようになった。今年は横浜市最高峰という標高わずか159メートルの大丸山近辺を歩いた。  

 暮れにそんな里山をうろついている人などいないだろうと思ったら、暖かい陽気のせいか、意外に多くの人に出会った。カワセミの写真を撮ろうと朝からねばったら、すぐ近くの枝に30分ほどとまってくれ、「至福のひとときでしたよ」と、うれしそうに話してくれたおじさん。「向こうに見えるのがアクアラインで、あれが海ほたる。あそこで光が点滅しているのが換気塔だ」と、得意げに教えてくれたおじさん。野鳥の図鑑を片手にあたりをきょろきょろと見回しているおじさん。なぜか出会ったのは、いかにも定年退職したような一人歩きの中高年男性が圧倒的に多かった。大掃除中の奥さんに、邪魔だと言われてきたのだろうか。  

 今回のハイキングで見られた鳥は、シメ、ジョウビタキ、モズ、アオジ、カワセミくらいで、それにウソとコジュケイの声を聞いただけだったが、それでも「鳥はいると思えば見つかるし、いないと思えば見えない」という姪の言葉どおり、耳をすまし、目を凝らせば何かしら見つかるものだ。 

 小さいころはいつもうちの娘と探検ごっこに興じていたこの姪も、最近ではすっかりいまどきの中学生になり、髪のセットに余念がなく、欲しい服を手に入れるためならどこへでも出かけるようになった。久々の山歩きに戸惑い気味だった姪は、岩の割れ目から水が流れでている場所に出ると、急に子供時代を思いだしたのか、その岩のトンネルのなかへ入ってみたいと言いだした。向こうから光がもれてくるので長いトンネルではないようだが、薄暗いなかを進んだら足をとられそうで、結局はあきらめた。夏になったら懐中電灯とビーチサンダルをもってきてここを探検しようと意気込む姪を見て、子供のころに身につけたことはそう簡単には消えないのだな、と少しうれしくなった。  

 帰りがけに、逆上がりが不得意な小学生のほうの姪のために、小さい公園に立ち寄ることにした。冬休みに入ってから体操教室に通って特訓されたらしいが、まだ完全にはできない。逆上がりなんて私はもう10年近くやっていなかったし、日ごろの運動不足もあっていささか不安だったが、人に教えるためには自分の感覚を取り戻さなければならない。エイヤッとやってみたら、意外にすんなりとまわれ、空中逆上がりも難なくできた。コツは身体を鉄棒に引きつけることだと思いだし、それを姪に叩き込んだら、何度か失敗したのち、めでたく逆上がりができるようになった。  

 久々に自然のなかを歩いた一日は、それぞれに有意義だった。暮れの里山を一人で散策しているおじさんたちは、少年のころを思いだして歩いていたのかもしれない。この絵は、日ごろから自然のなかを歩きまわってばかりいる娘が描いた今日の収穫だ。お正月は娘に付き合って、「初日の出とスズガモを見る会」に参加する。ああ、寒そうだなあ。

イラスト: 東郷なりさ