2022年8月11日木曜日

クリスマス休戦

 7月末締め切り厳守の仕事がまだ終わらず、目薬を点しまくり、湿布を貼りまくりながら、連日格闘している。それでも、とりあえず本文だけは何とか仕上げ、あとは大量の図版のみとなったので、書きかけだったブログ記事だけ、アップしておくことにした。  

 1カ月近く前、ふと見た新聞の1面下に『戦争をやめた人たち:1914年のクリスマス休戦』(鈴木まもる作、あすなろ書房)の広告を見つけ、古いメールを繰ってみたのだ。このエピソードについてよく知っているはずだったからだ。  

 最初にこの有名な史実を読んだのはたぶんフェイガンの気候変動の本だったと思うが、私が祖先探しをするなかで大量のメールをやりとりすることになったイギリス人のおじいさん、イアン・アプリンさんから、ご自分の父親があのクリスマス休戦のときの兵士だと聞いていたのである。  

 記憶は曖昧だったが、2014年12月23日、奇しくもクリスマス直前にいただいたメールに、こんなことが書かれていた。英文のまま転記させてもらう。 

Out of interest, yesterday's "Sunday Telegraph" had a half-page article about my dear father, including a photograph! A 100 years ago he was present at the famous 'Christmas Truce in 1914', when the British and the German armies facing each other in the trenches ceased fighting on Christmas Day. They met together in 'no man's land' between the trenches, exchanged greetings, sang carols and played football! On Christmas Eve my father sang a popular song of the time "Tommy Lad" to which the Germans called out 'sing again Englishman'! The newspaper had found a copy of a letter my father had written to a friend back in England describing the events. They had telephoned me earlier for any additional material details that I might be able to add. As you know in the First World War Japan and Britain were close allies.  

 当時の私は、自分の祖先がかかわったもっと以前の話に気を取られていて、この驚くべき事実をよく確かめもしなかったのだが、改めてネット検索をしみたら、2014年12月21日付の『サンデー・テレグラフ』の記事そのものが、いくつかの関連記事とともに見つかった。 イアンさんのお父さん、エドガー・ジョン・アプリンは、第1次世界大戦の西部戦線の塹壕戦のさなか、1914年のクリスマス・イヴに、当時のヒットソングの「トミー・ラッド」という歌を塹壕のなかで歌いだしたのだという。クイーンズ・ウェストミンスターズ連隊所属で、当時26歳だった彼はテノールの美声の持ち主だったらしい。中間地帯の反対側にいたドイツ兵がそれを聞きつけ、英語で「もう一度歌ってくれ、イングランド人。トミー・ラッドをもう一度歌ってくれ」と呼びかけたのだと、記事には書かれていた。このエピソードについてエドガーが故郷のイギリスに書き送った手紙が、親戚の家で遺品整理中に見つかり、新聞記者がさらに詳しい話を聞こうと、息子であるイアンさんを訪ねてきたようだ。現場の兵士のあいだで48時間の休戦が合意され、歌だけでなく、タバコなども交換したことが、手紙には書かれていた。  

 クリスマス休戦は10万人規模の突発的な出来事だったようで、西部戦線の各地で同時多発的に同じような現象が起こったのかもしれない。そのうちのどこまでが実話で、どこからが尾鰭なのかはわからないが、少なくともイアンさんのお父さんが確かにその1人であったことは、遅まきながら確認できた。愛馬と一緒に写っている写真のコピーもいただいていたのを思いだし、探してみた。  

 鈴木まもるの絵本の話は、ドイツ側の塹壕から「聖しこの夜」が聞こえてきたというエピソードをもとに綴られ、土砂降りのつづいた悲惨な塹壕戦の様子がわかるモノトーンのラフなタッチの絵が、いい味をだしている。最後に見事な夕焼けの場面でカラーになるところが、視覚的にも兵士たちの感動を伝える。ウクライナの戦争が始まったのは、あとがきの絵を描いているときらしいので、たまたまタイムリーな出版になったようだ。  

以前にイアンさんからいただいたお父さんのエドガーの写真