2002年5月29日水曜日

水泳

 いつの間にやら月末になり、はて今月、私は何をしていたのだろうと考えてみた。展覧会とコンサートに行ったくらいで、ほかに何も思い浮かばない。どこに行くにも、何をするにもやたらお金がかかるので、このところすっかり出不精になっている。自転車で行かれる範囲が生活圏になっているのはちょっと寂しい。  

 そんなわけで、また近くの区営プールのお話を。私はしょっちゅう泳いでいるので水泳が得意だと思われているかもしれないが、じつは泳ぎはまったくの自己流だ。水泳教室に通ったのは、小学生のころに短期コースに参加した一度きり。それも、当時はまだよく泳げなかったのに飛び込みばかり何十回もやらされ、五日間のコースの途中でくじけた記憶がある。 

 自己流だから、泳ぐのはとっても遅い。定められたコースのなかを大勢の人と一緒に泳ぐときは、すごいプレッシャーを感じる。とはいえ、好き勝手に泳げないいまとなっては、まわりの人と同じペースで泳ぐしかない。少しでも速くなろうと、泳ぎのうまい人を水中でこっそり観察することにした。そこで気づいたのがクロールの手のかきの浅さだ。手を水中に入れたとたん肘を曲げて水を手前にくいっとかいているのだ。そう言えば、船を漕ぐときオールは浅く入れればいいと言われたことがある。試しにやってみたら、心なしか速く進めるようになったみたいだ。しかも、あまり疲れない。  

 たとえ趣味の水泳でも上達するとうれしい。上機嫌で更衣室で着替えていたら、若い水泳のコーチとその元生徒とおぼしき人の会話が耳に入った。そのコーチによると、最近は水泳の指導方法が変わってきていて、昔のように指を閉じろとか、親指から水に入れろとか言わないらしい。昔はフォーム優先だったけれど、いまは自分が最も楽に泳げる方法を探ることが肝心なので、手を開いているほうが速く泳げる人はそれでいいという。へえーっ、知らなかった。  

 何食わぬ顔をしながらさらに耳を傾けていると、とにかく泳ぎこむしかないですね、とそのコーチはこともなげに言った。元生徒はその答えに不満だったのか、そんな暇はないし、自己流でやっているとフォームがめちゃくちゃになるので、最短距離でうまくなれるアドバイスが欲しいと食いさがった。  

 でも、たしかにこのコーチの言うとおりだ。水泳は脱力することが肝心だから、フォームをきれいにするあまり腕に余計な力が入るくらいなら、やらないほうがいいのだろう。楽に泳ぐことが、結局は速く泳ぐことにもつながるのだ。そして、そういう根本的なことは、人から教わって簡単にわかるものではなく、とにかく自分でたくさん泳いで体得するしかない。  

 うーん、今日は区営プールでずいぶん勉強させてもらった。相変わらずいつも混んでいるが、このプールにもそれなりにいい面はあるらしい。バンコクのアパートのプールには手本になる泳ぎをする人もいなかったし、だいたい人の会話を盗み聞きしようにも「外人」ばかりでそう簡単にはいかなかったからだ。よし、これからは私もどんどんスピードをつけて、いつかはマグロの魚群に加わってやろう!