2001年4月29日日曜日

バンコクの暮らし

 バンコクに引越して三週間余りがたった。荷物も、いろいろな問題もまだ片づかないままだが、日常の生活はなんとかこなせるようになった。  

 当分は車なしの生活なので、近くの店や郵便局までは炎天下をてくてくと歩いている。バスは最初のうち何度か失敗したが、いちばん近いショッピング・センター、The Mall(タイ語では、ダ・モウと言うらしい)までは、どうにか行かれるようになった。その路線の料金は冷房車だと10バーツで、暖房車!?だと3.5バーツ。どうしても困ったときはタクシーに乗っている。家からダウンタウンまで5~6キロの距離で80バーツほどなので、日本の感覚からするとすごく安い。それでも、貧乏性の私は、できるかぎり歩きとバスですませようとしている。  

 それにしても、タイ人は歩かない。娘が学校に歩いていかれるようにと、すぐ近くにアパートを借りたのに、アパートの管理人はたかだか150メートルほどの距離を車で送ると言い張る。たしかに車は狭い道路を猛スピードで飛ばしているし、歩道もないし、日差しはきついけれど、こんな距離を移動するのに誰かの手を煩わせ、ガソリンを無駄にするのは、どうも私の性に合わない。  

 もっとも、これだけの距離でも、必ず送り迎えをするようにと学校から厳しく言われたため、幼稚園の子のように、私が徒歩で送り迎えをするはめになっている。交通事情だけでなく、治安も悪いので、日本人学校にかぎらず、インター校やタイの名門校でも同じような事情らしい。いつも大人の監視下に置かれたら、子供たちは本当に窮屈だろう。  

 デパートやスーパーに行くと、ここがタイだということを忘れるくらい、なんでも揃っている。文房具などは、日本の店とそっくりな品物がたくさんあり、キティやポケモンはもちろんのこと、こげパンまで売っている。高級ブティックもたくさんあるし、街にいる若者は、暑いのにご苦労さまと思うほど、ビシッとスーツで決めている。  

 その一方、路上では、うだるような暑さのなかで赤ん坊を抱いた母親や、小さな子供や、身障者が物乞いをしている。運河沿いには、小さな家がひしめき合っている。わずか十数年のあいだに、急成長をとげさせられた国の矛盾が、あちこちに見られるような気がする。  

 タイ人はあまり本を読まないというので、どのくらい本屋があるかが心配だったが、中心街には紀伊国屋書店もあり、洋書も和書もある程度は手に入る。とくにアジア関係の本はかなり揃っていて、以前に私も下訳をやらせてもらった魏京生の本を見つけたときには、なんだかとってもうれしくなった。娘にはタイの鳥の図鑑とともに、近藤紘一の本を何冊か買ってやった。日本食を売っているフジスーパーのそばに、和書の古本屋があり、そこのご主人に聞いてみたら、近藤紘一の本はいまもとても人気があるらしい。  

 この国に滞在しているあいだに、タイならではのよさをたくさん見出して、吸収していきたいと思っている。とは言っても、何から始めたらいいのかわからないので、とりあえず、せっせと珍しい果物を食べている。路上で果物を売っている人の包丁さばきも見事なので、あれもいずれ習得してやろう!