2002年9月30日月曜日

餌台の事件

 夏のあいだ毎日のようにうちの餌台に来ていたキジバトとスズメが、ぷっつり来なくなってしまった。原因は猫。猫が鳥のいるところに惹かれるのは当然だし、もともと猫は嫌いではないので、仕方ないかとしばらく傍観していた。が、9月初めについに二名の犠牲者が出た。一羽は飛んでくるたびにプー、プーと威勢よく鳴いてくるのでぷーぷーと名づけていたキジ君。もう一羽は、群れることなく勇敢に餌台に乗っていたスズメだ。  

 殺害現場を実際に見たわけではなく、ガタンという猫が襲撃する音と残っていた羽から推測したにすぎない。隣の家に死骸が落ちているのではと心配だが、足がすくんで見に行かれない。結局、娘にお願いした。娘はこわごわと生垣の向こうをのぞいて、何もないのを確認してから、餌台付近に落ちていた羽を拾ってしっかり羽コレクションに加えていた。やわらかいおなかの羽を見ると、わたしはキジ君の最期を想像してぞっとしてしまうのだが、娘はなんともないらしい。  

 正直なところ、これで餌台は終わりにしたかったが、生物の世界の厳しい現実を見ることも大切かと思い直し、長い棒を買ってきて、狭い庭の真ん中に餌台をつくり直した。それでも猫はあきらめず、たびたびそばの茂みにひそんでいたので、そのうちハトもスズメもまったく来なくなった。そこで一計を案じて餌台のまわりと塀沿いに栗のいがをまいた。これが功を奏し、地雷を踏んだ猫がすさまじい悲鳴をあげて逃げる声を2度ほど聞いた。  

 これでとりあえずの猫対策はできたが、肝心の鳥が来ないのではどうしようもない。娘の友達からシジュカラはピーナッツを食べると聞き、半信半疑で餌台に置いてみた。待つこと数日。ある日、ツツピ、ツツピ、チチチチと声がするので餌台を見ると、ベレー帽に太いネクタイのシジュウカラのオスが餌台に乗り、ピーナッツをくわえてさっと飛び立った。間近に見ると、緑黄色とストライプの模様がじつにシック。シジュウカラが来るようになったので、レストランの営業はつづけることにしたが、キジバトやスズメの信頼も回復したいし、もっとほかの鳥も呼びたい。  

 ミニ・サンクチュアリに関する本をあれこれ見て、紫式部とピラカンサの小さな鉢を買い、猫の手が届かないようにフェンスにかけたが、いまのところメジロが1度立ち寄っただけ。立派な木が生い茂る庭が両隣にあるので、そこに来るメジロをこんな小さな鉢でおびき寄せようというのがどだい無理か。果物フィーダーなる新兵器も設置してみたが、いまのところ誰も見向きもしない。  

 この原稿を書いているいまも、コツコツと音がする。餌台でシジュウカラがヒマワリの種を割っている音だ。意外にへたくそでなかなか割れないので、しばらく観察できる。そのたびに仕事を中断して、つい餌台を見に行ってしまう。耳が鋭くなったのは確かだ。先日もコゲラの声がすると思い、あたりを見まわすと、案の定、隣のキウイの木に止まってドラミングを始めた。昨日は耳慣れない声がしたので、娘とふたりで目を光らせながらあたりをうかがった。道路のほうから聞こえるのでそちらを見ると、杖をついたおばあさんが歩いてくる。音の正体は杖の先についたプラスチックのキャップだった。  

 そろそろツグミやシメなどの冬鳥がやってくる。新規顧客を獲得する名案ないですかね。