2011年1月4日火曜日

イギリス旅行2010年

 暮れにバンコク経由でイギリスに行ってきた。まだ暗い早朝に上空から眺めたロンドンは、黄色い灯り一色で描いた絵のようであり、隣にいたフランス人一家が「セ・ボウ!」を連発していた。空港から市内に向かうあいだの町並みを見てまた驚いた。どの家も二階建て程度で、屋根からメアリー・ポピンズの映画の「チム・チムニー」の歌にでてくるような煙突が突きだしているのだ。築100年の家がざらにあるとは聞いていたが、家など建ててはつぶすのが当たり前の日本に慣れている身には、誰もが古い家を修復しながら住んでいるということが、新鮮な驚きだった。 乗り込んでくる早朝の通勤客の多くは、地味な色の質素なコートにニット帽をかぶっている。そうしたなかに、ニカブをまとって目だけをのぞかせている女性がいても、誰も気に留めない。イギリスは80年代以降、多文化主義を受け入れるなかで大きく変わったと、アマルティア・セン博士が書いていたことが思いだされた。 キングス・クロス駅までどうにかたどり着き、はずれにある9番線ホームを探し当て、ホグワーツならぬ、娘の住むケンブリッジ行きの列車に乗った。ロンドンを離れると、あたりは一面雪景色になり、真っ白な牧草地に羊が点々と見えた。  

 イギリスに行ったら訪ねてみたい場所は限りなくあったのだけれど、事前準備も軍資金も不足していたうえに、天候が思わしくなく、娘は休み明けに提出しなければならない課題がどっさりあったため、結局、一週間ずっと娘の狭い下宿に転がり込み、そこを拠点に行動することになった。その分、日常生活やケンブリッジ市内をよく見ることができたので、それはそれで興味深かった。大学のお友達のアパートや鳥仲間のおじさんの家にもお邪魔し、クリスマスの時期にならではのマルドワインやミンスパイをご馳走になった。新鮮なタラのフィッシュ&チップスも食べたし、ケム川を眺められるパブでIPAエールを飲みながら、ローストビーフのヨークシャープディング巻きも食べた。文字で読んで想像を膨らませていた食べ物を味見するのはじつに楽しい。まさに、百聞は一食にしかず。  

 ロンドンにも一度だけ足を伸ばした。雪のなかのロンドン塔見学はなかなか風情があった。子供のころにもきたことがあるのだが、大きな宝石のついた冠を見たことしか覚えていなかった。今回はラザファードの小説『ロンドン』でロンドン塔建設に少々詳しくなっていたので、登場人物オズリックが強烈な仕返しをしたギャルドローブ(便所)や、その後に隠れた暖炉も、しっかりと見てきた。『巨大建築という欲望』に書かれていたノーマン・フォスターのガーキンやロンドン市長舎も見たし、火力発電所を改造したテートモダンのタービンホールをのぞいたあと、ミレニアム・ブリッジも渡ってみた。対岸にあるセントポール大聖堂は、ドーム屋根といい、コリント式円柱といい、建設当時は確かにいまのガーキンと同じくらい異質な景観だったに違いない。  

 何よりもよかったのは、大雪の翌朝、銀世界のなかを凍結した川沿いにグランチェスター村まで10 キロほどの散歩したことだろうか。道中たくさんの鳥が見られ、氷点下の気温をものともせず、犬を連れたり、橇遊びをしたりして家族で楽しむイギリス人にもたくさん出会った。お茶を飲んでいると、隣のテーブルのおばあさんがにこやかに話しかけてくる。私の頭のなかにできあがっていた冷淡なイギリス人というイメージはすっかり崩れていた。娘がこちらの生活に瞬く間に馴染んだのも当然かもしれない。  

 帰国便の機内でディズニーの「クリスマス・キャロル」を観た。映画のなかの光景は、少し前まで歩いていたケンブリッジの町並みとそっくりだった。

 煙突の並ぶ町並

 トリニティカレッジの裏門

 雪のロンドン塔とガーキン(左)

 ロンドン塔内のトイレ

 ロンドン塔内の暖炉

 ミレニアムブリッジから見るセントポール

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