2022年10月7日金曜日

『プロパガンダ』を読んで

 2カ月も前に読んだ本について、いまさら何かを書いても仕方ないかと思ったのだが、目下の仕事で引用されていた箇所の訳文を確認するため、もう一度図書館から借りたので、頑張って少しばかり書いておくことにする。「PRの父」と呼ばれたエドワード・バーネイズの『プロパガンダ』[新版](中田安彦訳・解説、成甲書房)という本だ。  

 この半年間、たびたび「ロシアのプロパガンダ」という言葉がネット上を飛び交っていたので、ちょっと興味をそそられて軽い気持ちで借りてみたのだが、驚くような内容だった。かいつまんで説明すると、プロパガンダはもともと国外伝道師を監督、教育するローマの組織や機関を指す言葉だったが、第一次世界大戦中に「戦争宣伝」として大衆の考えをコントロールする手段として使われるようになった。原書が書かれたのは1928年で、当時すでに多くの人はこの言葉を不快なものと感じていたという。 

 訳者の解説によると、第一次世界大戦ではドイツ兵に「野蛮なフン族のアッティラ」というイメージを植え付け、「敵であるドイツは悪魔であり、味方であるアメリカは正義の使者である」という単純な二分法によった戦争宣伝のかなりの部分が誇張で、虚偽も含まれていたため、プロパガンダという言葉のイメージが悪くなったようだ。 

 そのため、同じように大衆をコントロールする手段として、大企業に大衆が何を考えているかを伝え、大衆には経営についての考え方を伝える橋渡し役のプロパガンディストは、「パブリック・リレーションズ(PR)・コンサルタント」と呼ばれるようになったという。PRはプロパガンダと同義だったのだ。  

 ジークムント・フロイトの甥というバーネイズは、企業が流行と需要を生みだし、大衆を意のままに操って大量消費させる手法を本書で明らかにする。そこで説明されるPRコンサルタントの役割は基本的には、大衆と顧客企業との関係を徹底的に分析して、適切な方針を打ち出すまでであり、その先は広告代理店と棲み分けているようだ。広告代理店なら誰もがその存在を知り、具体的に何をやっているかも想像できるが、PR会社となると、何をしているのかよくわからないのは、そのあたりに理由がありそうだ。  

 色々な意味で刺激的な本で、原書と読み比べたわけではないが、訳文は非常に読みやすかった。手元に置いておきたい本だが、2010年刊のこの新版もすでに絶版のようで、電子書籍しか簡単には手に入らない。おそらく図書館には入っていると思うので、ぜひご一読を。

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