2009年3月31日火曜日

ベトナム旅行2009年

 毎年、タイばかり行っているので、今年は他の国も見てみたい。それならカンボジアがいい。そこまでは決まったのに、忙しくて旅の計画を立てる暇がなかった。そんな折、格安航空会社のエアアジアがゼロバーツ・キャンペーンをやっているから、一緒にハノイに行こうよ、とタイの友人から誘われた。ハノイ……あまり興味はないけれど、近くでベトナムの鳥を見られるなら、それもいいかと行く先を変更した。出発間際になって、クックフーン国立公園に電話をかけ、公園内の宿とハノイからの車を手配してもらった。  

 ハノイの空港に降り立った瞬間から、これまでとは勝手の違う国にきたことを悟った。市内までバスに乗るつもりだったのに、タクシーの運転手に囲まれる。あまりにしつこく迫るから、外国人はみな恐れをなして逃げる。つねづね思うのだが、商売でも恋愛でも、強引に押せば押すほど相手は引く。名づけて私の「プッシュ&プル論」。 

 ターミナルでも客引きに囲まれ、現在地もわからないまま困惑しているところへ、ベトナム人にしては体格のよい男性が現われ、流暢な英語で「メイ・アイ・ヘルプ・ユー?」と声をかけてきた。ホテルへの道を聞くと、自分の家も同じ方向だから、「フォロー・ミー」と言ってすたすた歩きだした。足早に歩くので、男性の姿は雑踏のなかに消えかけている。私たち3人は顔を見合わせ、荷物をかかえてあとを小走りに追った。しばらく行くと、男性が振り返り、私たちがついてきているか確かめた。笑いを堪えながら、私たちはバイクとトラックとクラクションの洪水のなか、信号のない通りを何度も横断して必死にあとを追った。男性はホテルの少し手前で立ち止まり、自分はここで右に曲がるけれど、あとはまっすぐ行けばいい、と言い残して去っていった。無理強いせず、適度な距離を置いて引けば、あとから妙齢の(?)女性が3人もついてくるのだ! まさにプッシュ&プル。 

 突然のヒーローの登場に、私たちの旅行気分は一気に高まった。その後もおかしなことがつづいたが、極めつけはクックフーン国立公園に向かう車中の「事件」だった。朝の7時には、ホテル前に迎えのオンボロ車がきていた。運転手は無言だったが、英語のできないベトナム人は概して手話のように身振りだけで話すので、気にしないことにした。2時間ほど走ったところで急に車が止まり、エンジンをかけたまま運転手が道端で用を足し始めた。仕方なく待っていると、やおら車が走りだした。「あれっ、違う人だ」という娘の一言に窓の外を見ると、前の運転手はまだ立ちション中だ。2時間交替なのかと勝手に解釈して、そのまま進んだ。が、新しい運転手はひどく不機嫌だ。そのとき、目の前をバイクが横切り、車が急停止した。運転手は大声でバイクの運転手を怒鳴りつけ、車を降りて喧嘩を始めた。殴り合いにはならなかったが、さすがに怖くなった。再び車が走りだすと、娘が言った。「この車、ハイジャックされたわけじゃないよね?」その言葉に、友人の顔色が変わった。車を乗っ取られるな、とタイで注意されたのを思いだし、血の気が引いた。すると友人が開き直り、運転手に向かって「この車はどこへ行くの? ハロン湾?」と、有名な観光スポットを挙げて鎌をかけた。彼女の声のただならぬ調子に、運転手もまずいと思ったのか、クックフーンらしき単語をつぶやいた。やれやれ。そのあと公園の事務所の担当者と電話で話させてくれたうえに、フランスパンまでくれたが、喉を通らなかった。  

 クックフーンで過ごした3日間はのどかで、ギンムネヒロハシやツノヤイロチョウなど、珍しい鳥がたくさん見られて充実していたが、あとから振り返ると、サプライズの連続だったベトナム人とのやりとりが、いちばん印象に残っていた。旅はおもしろい。
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クイナ通りSoi 17 http://pub.ne.jp/KuinaSoi17/
*ブログ「クイナ通り」はこちら

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