2021年4月4日日曜日

4刷!

 2年前に刊行された『科学の女性差別とたたかう』(作品社)が、このたびありがたいことに4刷になった。少しずつ読者層が広がっているのだとすれば、訳者としてたいへん嬉しい。著者アンジェラ・サイニーは、才能豊かなインド系イギリス人の若手女性ジャーナリストで、家族の協力のもとに、子育てをしながら取材や執筆の時間を捻出している。  

 最近、時代が変わったと思うことが何度かあった。駅前に停車している市営バスの運転手が若い女性だったり、足場を組んでリフォーム中の近所の家から、ハーネスを付けたおばさん鳶職人がでてきたり、ひと昔前の日本では考えられないような職種にも、女性が入り込んでいるのだ。  

 私が勤めていたころは、母性保護という名目で男女異なる残業時間が設定されており、深夜残業せざるをえない状況でも、女性だけそれを申告できないという、矛盾だらけの事態になっていた。勤め人を辞めて久しいため、労働基準法の「女子保護規定」が1999年に撤廃され、女性も男性と変わりなく、休日出勤も、時間外・深夜労働もできるようになったことをよく認識していなかった。いまでは危険を伴う職場での就労も、妊産婦を除いておおむね可能になっているのだそうだ。  

 それでも、2021年の日本のジェンダーギャップ指数はまたもや156カ国中120位という、かなり不名誉な順位となった。医療(65位)、教育(92位)の面では、少しは面目が立つ位置にランク付けされているのに、総合点でこれほど低かったのは、政治参画、正確にはpolitical empowermentの分野で147位と、底辺をさまよったためだ。エンパワーメントとよくカタカナ書きされるこの言葉は、意味がわかりにくいが、パワーを与えるという意味で、権限付与または権限委譲と訳される。要は、女性の意見を代表する議員や閣僚が少なすぎるのだ。汚職と失言を繰り返しながら辞職もしない大勢の「先生」方を一掃すれば、韓国(102位)、中国(107位)くらいまでは上昇できるかもしれない。  

 しかし、男尊女卑の儒教文化のなかで何百年ものあいだ染み付いてきた既成概念を克服するのは容易ではない。そもそも、日本の何が問題なのか理解できない人があまりにも多く、世界経済フォーラムによるこの指数のほうに問題があるという声さえある。バブル世代くらいまでの中高年層では、家庭でも職場でも飲み屋でも何人もの女性に侍らせることが自分のアイデンティティだと信じている人がいくらでもいるし、女性の側も、いちいち目くじらを立てず、甘えとおだてを武器に権力者に取り入るのができる女だと言わんばかりだ。  

 子供のころから刷り込まれた先入観は、一朝一夕ではなくならない。子供に与える玩具や服なども、知らず知らずのうちにジェンダー(社会的性差)意識を植えつけていることを、私はサイニーのこの本から学んだ。本人が性別を自覚していない年齢の子にはとくにユニセックスなものを、少なくとも男女で色分けしないものを与えるべきだ。社会全体の意識を変えるためには、まずは子育て世代や教育に携わる人たち、子供服や玩具をつくるメーカーなどが現状をよく把握し、日々当たり前のようにやってきたことに疑問をもつなど、地道な積み重ねが必要ではないだろうか。

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